先週末、今話題の「M&Aコンサルティング」(通称、村上ファンド)代表、村上世彰氏のスピーチを初めて聞いた。直感的に、「相当、エキセントリックな男かもしれない」という印象を受けた。
12日午後、都内のホテルでマネックス証券主催の「個人投資家のためのオルタナティブ投資のすべて」というセミナーが開かれた。
「オルタナティブ投資」は、通常の株式投資や投資信託と違い、ヘッジファンドや未公開株ファンド、ベンチャーキャピタルファンド、企業再生ファンドなどを投資対象とするものだ。これまで欧米の富裕層(最低10億円程度、個人資産を持っている人)を相手にしてきたため、一般的な個人投資家にとっては秘密のベールに包まれてきた。
セミナーには、日本を代表するオルタナティブ投資のプロ5人が各20分前後の短い時間ながら、投資最前線の内容を話してくれた。
プロ5人のひとりが、村上氏だった。
壇上の姿は「中肉中背か、あまり大きくはない」と思った。どことなくボンボン風の優しい顔立ち、口調も最初は穏やかだった。
だが…。
通産省時代、株価が割安に放置されている企業の経営者に出会った。
「なんで上がらないかわからない」と不審がる経営者に、村上氏が「あなたはどのくらい自社株を保有しているか」尋ねたところ、こんな答えが返ってきたという。
「そんな危ないもの、買えません」
村上氏は急にキレたように語気を強めた。
「クズみたいな経営者がいっぱいいた」
「クズ…」の部分は、吐き捨てるような激しい口調だった。
僕は、ハッとした。
東大卒、通産省OBのエリート、そして金融の最先端、M&Aの申し子。彼に対し、勝手にスマートな人物像を描いていたが、「違うぞ」。彼のスピーチの一言一言を聞き漏らすまい、と神経を集中させた。
村上氏は、敵対的M&Aは悪か?というテーマには、「基本はひとつ。適正な株価をつけろ。適正な株価をつけずにガタガタ言うな」と一刀両断。
匿名の「某放送」に対しては「なんのために上場したのか。ある人の株(比率)を薄めるため。ノホホンと上場して、今頃社長がオタオタとしゃべる。クズです」と、またも「クズ」呼ばわりして罵った。
次に、フジ、ニッポン放送の実名を出して今回の騒動の一部を振り返った。
今年1月、フジがニッポン放送株をTOB(株式公開買い付け)すると発表したときは、「ありがとう。感謝の気持ちでした」という。
当時、村上ファンドは18%強保有するニッポン放送の筆頭株主だった。過去数年間買い続け、「最後は300億円投資していた」。この間、フジ、ニッポン放送との間では「ののしり合いのけんかもした」という。
ライブドアが2月、電撃的にニッポン放送株の35%を奪取、筆頭株主に劣り出ると、フジ側はTOBの比率を25%に落とした。これに対し、村上氏は「激怒した。ニッポン放送が持っているフジの議決権がなくなる。なぜ、そんことを(同放送の経営陣が)認めるのか」。多くの安定株主が、マーケットの価格より安い5950円のTOB価格で持ち株をフジ側に売却したが、これにも「フジサンケイとお取引が…という。それ、総会屋じゃないのか。ほかの国なら、応じる人はいない」とも非難した。
そして、スピーチの締めくくりは、次のような宣戦布告。
「最近、マスコミの取材には応じていない。が、もう一度、6月にチャンスがあります。6月…そう、ニッポン放送の株主総会で。みなさんも6万3000円(ニッポン放送株は10株単位)で私の演説が聞ける」。村上氏は、不敵な笑みを浮かべ、壇上を去った。おそらくホリエモンとは、一心同体なんだろう。
エキセントリック、まむしのような執念深さ、(スマートとは正反対の)泥臭さとド根性…。
間近で聞いた村上氏の短いスピーチからは、こんな人物像を直感した。
こんな手ごわい人物を相手にしていたのに、ニッポン放送は何年も手をこまねいていたわけだ。これまでに、時間はあった。だが、手ごわい相手を向こうに回しているという危機感がまるでなかった。まさしく経営陣の失態だろうね。
今回のライブドアの買収劇の直後、フジサンケイグループのある首脳も「大丈夫。あんなの、なんてことない」とタカをくくっていた。
油断…。
いずれ、村上氏のことは取材してみたい。
そして、機会があったら、こんな手ごわい相手に勝負を挑んでみたいものだなあ。
(2005/3/14)
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