2008年2月10日日曜日

大したタマよね

都心で37日連続真夏日を記録したきょうも、宿直勤務。クーラーの効いた編集局で涼みながら、暑い夏の出来事をもうひとつ、思い出した。

あれは、日本新党ブームにわいた夏(ずいぶん、昔のことになりますね)。参院選に出馬した小池百合子さんの選挙戦を1日密着ルポした。

日本新党の2枚看板といえば、殿・細川護煕と、姫・小池百合子。

小池さんは初日、名古屋で第一声をあげ、選挙カーで市内を回った。僕はタクシーをチャーターし、小池さんの後を追いかけた。うだるような暑さだった。夜8時にやっと終了。

東京へ戻る新幹線の個室で、この日1日の感想などを聞き、取材を終えた。キャスターとして人前で話すのに慣れている小池さんだが、1日の疲れがぐっと押し寄せたのか、壁に寄りかかるようにもたれ、さすがにグッタリした様子だった。実は、この密着ルポには、ある狙いがあった。


このころの政界には、閉塞感が漂っていた。金銭スキャンダルが続出し、腐敗しきった自民党の体質。だが、対する野党も頼りなく、一党支配は崩れそうで崩れない。そこに登場したのが、「名家」熊本藩主の出という細川さんだった。

「殿なら、この閉塞した政界に風穴をあけてくれそうだ」との期待が高まり、無党派層の反乱が始まった。事実、この参院選、そして次の衆院選でも日本新党ブームは続き、殿は総理大臣になる。だが、この参院選の直前、ちょっとしたゴタゴタがあった。

日本新党から出馬する予定だったプロテニスプレーヤーの佐藤直子さんがドタキャンしたのだ。比例代表制の名簿順位が、そのもめた理由だった(おそらく)。名簿1位は殿、2位は小池さん。佐藤さんは6位だった。ここからは推測だが、「わたしこそ殿の寵愛を受けている」と思い込んでいたはずの佐藤さんは、小池さんより下の順位だったことに、プライドを傷つけられたのだ。

もちろん、そうした本音を彼女が語ることはなかったが。佐藤さんのドタキャン記者会見には、僕らマスコミが大勢詰めかけた。このとき、僕が「あなたの説明じゃ納得できない。ドタキャンはあまりに無責任すぎる」と詰問すると、佐藤さんは返答できず、宙を見上げて絶句していた。(案外、正直な人だなあと思った)。

小池さんには、この「佐藤直子ドタキャン劇」について一言、コメントをもらいたかったのだ。といっても、まともに正面から行くと、かわされる。で、1日密着したこの日、チャンスをうかがっていたのだ。

帰りの新幹線の個室で、2人きりになった。秘書もいない。一日の感想を聞き終えると、小池さんに冷えたビールを差し入れ、「お疲れさまでした」と乾杯した。

小池さんは、うまそうに一口飲むと、笑顔をみせた。僕は、手にしていた取材メモを閉じた。いかにも取材は終ったと思わせるようにして。そして、雑談を装いながら、「ねえ、小池さん、佐藤さんのこと、どう思いますか?」と切り出した。小池さんは、すっかり気を許したようだった。

「女の敵は女」「あれは、大したタマよね…」。

僕の前で、佐藤直子へのうっぷんをぶちまけてくれた。
深夜、編集局に戻ってきた僕は、大急ぎで原稿を書き上げた。翌日の紙面には「大したタマよね」発言が、大見出しを飾っていた。

(でも、これってだまし討ちだよね…)。いまも、心の片隅でちょっぴり後ろめたい思いを引きずっている。ただ、小池さんにはその後、何度も取材で会ったが、一度も文句を言われたことがない。人物の大きさを感じた。

「あなたこそ、大したタマです、小池さん!」。

(2004/8/11)

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