2008年2月11日月曜日

目標、年間1000人!

出版界の名物編集長として知られる花田紀凱さんがこのほど、新雑誌「WiLL」(月刊)を創刊した。花田さん本人は「75点」と自己採点していた。


長嶋一茂の「わが父、長嶋茂雄」というインタビューや、横田早紀江さんと櫻井よしこさんの対談、歌手の谷村新司さんのエッセー、「噂の真相」の元編集長、岡留安則さんのコラムなど、「さすが!」と思わせる内容が並んでいる。

総力特集には「厄介な国、中国」をもってきているが、つい最近、古巣の文藝春秋が中国特集を展開していたから、「これはひょっとして、古巣への宣戦布告のつもりなのかな?」と思ったりもした。

僕たち記者も、この一冊から教わることは多い。巻末の「編集部」からに、新人編集者が「編集長、とにかく粘る」「そうしたハラハラドキドキのなかでおもしろい雑誌のつくり方は叩き込まれていく」と書いてあった。

僕が花田さんに直接、お会いしたのは1度。花田さんは週刊文春の編集長だった。

当時の週刊文春は統一教会スキャンダルをはじめスクープ連発、週刊誌ジャーナリズムの先頭を突っ走っていた。

「なぜ、これほどスクープできるのか。おれなんか、めったにスクープなんか取ってないのに…。名物編集長ってどんな人?」という興味で、会いに行った。

花田さんの印象は「少年みたいな人」。

僕は、心のどこかでどっしりとした重厚感のある大物編集長像を描いていたが、まるで違った。さわやかで、軽やかで、純真で、興味があることに一途で。話を聞いていて楽しかった。

2つのことを今でも覚えている。

元フジテレビアナウンサーだった逸見政孝さんが、がんで壮絶死を遂げた直後、花田さんは晴恵夫人の手記をスクープした。だれもが話題の人の手記を狙うが、悲しみにくれている人の心を動かすのは容易なことではない。どのようにして琴線にふれたのか。花田さんは何度も手紙を書いたと言っていた。文面には、晴恵夫人の心を動かす言葉があったのだろう。
まわりが休みに入る年末年始も、花田さんは手記獲得のため逸見家へ向かった。昼過ぎだったため、花田さんは昼食をすましていたが、晴恵夫人が食事を用意してくれた。「いえ、食べてきたので…」と断れないので、「わあ、おいしそうですね」と言いながら平らげたと、インタビューのとき苦笑しながら打ち明けてくれた。

スクープのコツ、その1。人が休んでいるときこそ仕事しろ!

当時の編集部員によると、とにかく花田編集長は席にいない人だったという。ひたすら人に会いに行っていた。パーティーに出席すると、何十枚もの名刺をおみやげに持ち帰った。花田さんは「1日3人、年間1000人、新しい人に会うこと」を目標にしていると話していた。

スクープのコツ、その2。年間1000人と出会え!

この話を聞いてから、僕も毎日、手帳に、何人(初対面の人に限る)と出会ったかを記録するようになった。記者としていろんな人に会っているつもりだったが、意外にも同じ人と会っていることが多く、初対面の人と毎日3人会うというのはとても大変なことだった。じつは僕は、一度もこの目標を達成したことがない。毎年、300人から500人程度。最近は外に取材に出る機会が減ったので、今年は11月30日現在で244人だ。つくづく、花田さんの偉大さを実感している。

ただ、今回の創刊号を見て「花田時代は終わったんだなあ」という気もした。どうしても、かつての週刊文春のテイストに近い。花田さんの心の中では、かつての週刊文春が「100点」(創刊号の自己採点75点)に近いのではないか。僕たちは、ミニ週刊文春を見せられても、ときめくようなインパクトは感じられないのだ。

成功体験の呪縛。昭和のカリスマ経営者たちが相次いで世間から退場していくが、彼らの失敗の多くが、成功体験にとらわれたことだと思う。人間誰しも、成功が続くと、次も同じ方法で成功すると考えがちだ。が、いずれその成功の法則が通用しなくなる。だが、成功体験にしばられていると、そのことに気づかなくなってしまう。

株式投資を経験していると、このことを実感する。去年は、ある投資方法で成功したのに、1年たつと通用しなくなる、ということがよくあるのだ。絶えず、自分の成功体験をぶち壊し、新たな成功の法則を見つけないといけない。

メディアの置かれた現状は、過去の成功体験をぶち壊す時期に来ているのではないか。それは、「ブログ」の流行(双方向発信、マスではない個のメディア)からも感じられる。新しい流れが奔流のように噴き出し、古いメディアがあっという間に飲み込まれるのではないか。

いまやメディアも明治維新前夜のような、開国を迫られている時期かもしれない、とマスコミの体制内にいる僕も思っている。花田さん、こうした時代に気づいていれば、今は雑誌を創刊している場合じゃないんじゃないでしょうか。

(2004/12/1)

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