2008年2月11日月曜日

キャッシュカードがあぶない

きょう8日の日経新聞(4面)に「偽造カード 銀行に対策要請」という記事が出ていた。偽造キャッシュカードで預金が引き出される被害が急増していることを受け、金融庁が金融機関に対し、2月末までに対策をまとめるよう求める、という内容だ。こうした記事が出たのはジャーナリスト、柳田邦男さんのペンの力にほかならないが、記事を読むと、銀行界は「実際に被害が出た場合の銀行による補償には慎重だ」とある。

どこまで腐っているんだろうね、日本の銀行ってやつは。
みなさんもぜひ、柳田さんが昨年暮れ、緊急出版した「キャッシュカードがあぶない」(文藝春秋)を読んでください。僕の、そしてみなさんのお金が大変な危機に瀕しているんです。

柳田さんの知人が昨年、偽造キャッシュカードとみられるATMからの現金引き出しで、銀行預金2行(東京三菱、三井住友)分、計3226万9630円を盗まれたことが緊急出版のきっかけだった。

被害にあった知人が生活費を引き出そうとしたところ、「残高がありません」との表示がでたので、「そんなはずがあるもんか」と支店に問い合わせ、預金を全額引き出されていることが判明したのだ。
だが、キャッシュカードも通帳も盗まれていない。それなのになぜ、現金を下ろすことができるんだ?

警察では「スキミング」とみている。スキミングとは特殊な機械でキャッシュカードなどの磁気情報を読み取る手口のことだ。
犯行グループは、持ち主の財布などからカードを抜き取り、スキミング装置でデータを読み取り(1秒もかからない)、カードを元に戻しておく。被害者は、カードをスキミングされたことに、まったく気づかないという。

ただ、キャッシュカードの情報をスキミングしただけではATMを使えない。「暗証番号」が必要だからだ。犯行グループはどのようにして、「暗証番号」を入手するのか。

原始的な方法では、ATM利用者の後ろから画面を覗く、あるいは手の動きから番号を類推する、などがある。
もっと高度になると、ATMの真上に密かに超小型カメラをセットしてモニターするという手口がある。

ゴルフ場のセイフティーボックスを狙う犯行も頻発した。セイフティーボックスの真上に、やはり超小型カメラをセットしておく。被害者がプレーしているすきに、盗撮した映像で知った暗証番号を使ってボックスをあけ、キャッシュカードをスキミングしたあと、元に戻す。セイフティーボックスの暗証番号とキャッシュカードの暗証番号が同じ場合が大半だという。あるいは、運転免許証などから生年月日を割り出し、暗証番号を類推するケースもあるようだ。(誕生日を暗証番号にしているケースも少なくないからだ)。


最近では、さらにハイテク化している。
銀行のコンピューターに通じるATMの電話線に一種の盗聴器をつけてカードの磁気情報と暗証番号を傍受する、という電子技術の最先端を行く手法が普及している、というのだ。

こうした犯罪に対し、では銀行側の対応はどうか。
これが、お寒い限りというか…。

柳田さんが被害者を取材してまわったところ、銀行側の言い分は次のようだったという。
「カードの管理は自己責任ですから、銀行には責任はありません」
「うちは、ATMに(正しい磁気情報が入った)カードと暗証番号を入れた人に、きちんと支払いましたよ、どこがいけないんですか?」

最近、各銀行は暗証番号について「誕生日など類推されやすいものはやめてください」と盛んにキャンペーンを実施している。
だが、待ってほしい。
わずか4ケタの暗証番号だけでセキュリティーが保たれると、みなさん、本気で思いますか?

被害者の中には誕生日を暗証番号に使っている人もいたが、乱数表を使って他人に類推されないように警戒していた人もいた。だが、そんな警戒をしていても、ハイテク化した犯行グループにはやすやすと暗証番号を盗まれていたのだ。

柳田さんは海外の金融機関の事情についても、取材をしている。
この結果にも愕然とする。

犯罪先進国といわれる南アフリカでも偽造カード犯罪は頻発しているが、銀行は大口の預金者には盗難保険をかけているので、万一、盗難にあった場合も全額、補償してもらえるという。

すでに世界各国で消費者保護のための法律が制定されている。
米国では「50ドル・ルール」がある。これは、銀行に口座を持つ人が、偽造カードなどで預金を盗まれた場合、被害者が負うべき責任限度額を最高で50ドル(5500円)とする制度だ。つまり、盗まれた預金は50ドルを差し引くだけで、ほぼ全額戻ってくるという。
英国にはほぼ同じ「50ポンド・ルール」、フランスには「150ユーロ・ルール」がある。
さらに、日本の場合、ATMを使って一度に何百万円も引き出すことができるが、セキュリティーと消費者保護を重視する世界各国は、引き出し限度額を数万円程度に抑えているというのだ。

被害者の中には、深夜から未明にかけ、コンビニATMから計127回、総額2600万円も引き出されているケースがあったという。深夜に、これだけの資金を一体、普通の人が必要とするだろうか。にもかかわらず、現状の銀行のセキュリティでは「警報表示」も出なければ、当人への照会もない。

繰り返すが、こうした犯罪が頻発していることを知りながら、銀行は「責任はありません」「正しい磁気情報と暗証番号を入れた人にお金を出しただけで、なにがいけないのですか」と被害者の前で開き直っているのだ。
みなさんは、これをどう思いますか。

つまり、銀行が言っているのは、こんなことだ。
お金を預けてください。ただし、預かったお金がどうなるかは知りません。もし、盗まれても銀行の責任じゃありません。

銀行には、預金者のお金を預かっている「自覚」も「責任」も皆無だ。

僕らの大切なお金をガードしているのは、わずか4ケタの暗証番号だけ。
唯一、これだけなんですよ。

いつだったか、日本の国債格付けがアフリカの「ボツナワ」以下に引き下げられ、レーティングした格付け会社に向かって「世界第二の経済大国の実力を過小評価するな」と非難の声が集中したが、日本の銀行の対応をみると、「やっぱ、ボツナワ以下で当然だったんじゃん」と思ってしまう。

全国銀行協会によると、偽造カードによるとみられる被害は、2002年度は1200万円(4件)だったが、03年度は2億7200万円(91件)、04年度は上半期だけで4億6100万円(122件)に急増しているという。

だが、この数字も氷山の一角だ。銀行、警察の冷淡な仕打ちで泣き寝入りしている被害者が大半だと想像されるからだ。

こんなに被害が広がっていることを知っていながら、預金者保護にほおかむりしていた金融庁もなんなんだろう。UFJを刑事告発して正義の使者みたいな顔してたけど、とんだ偽善者じゃないか。こっちも問題のほうが、金融行政の根幹だと、僕は思う。
これでは預金者からの「信用」をまったくなくすだろう。にもかかわらず、銀行は危機感がない。
きっと、銀行ってヤツは腐っているんだな。


(2005/1/8)

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