2008年2月10日日曜日

続・ハレンチな奴ら

(前回のブログの続きです)。シマゲジの「国会ウソ答弁」をもみ消す密命を帯びたNHK会長室副部長が、当時、衆院逓信委員長だった野中対策のために、左手の300万円の札束と別に、右手に持っていたものとは…。「教えたら、またこいつが書いちゃうからな」。NHKと手打ちした野中広務さんが侮辱するように言った、あのセリフが僕を取材に駆り立てた。そして1週間後、ついに突き止めた。それは、「天下の公共放送がここまでハレンチだったか」とあ然とするものだった…。

NHKのワイロ工作の舞台となった逓信委の欧州外遊。
議員は野中さんを含め7人だった。

僕は、野中さん以外の6人を片っ端から直撃したが、「ファーストクラスの野中さんとは席が離れていて、そんなこと(副部長が野中さんに現金を見せる)があったのを知らなかった」「古い(5年前の)話で覚えていない」と、取材は暗礁に乗り上げていた。

一方、僕の記事を読んだNHK内部と思われる人から「NHKの醜い権力闘争」や「国会議員に対する接待工作」などのタレ込みがあり、連日、記事を書き続けた。

たとえば、こんな内容だった。「NHKの予算は、衆参の逓信委員ら郵政族議員たちに握られている。このため、予算審議のころになると、特命を帯びた政治部記者が族議員の根回しに奔走する」「会長室には領収書のいらない工作費がある。番組審査委員の会合が地方で開催されるときは、寿司屋、飲み屋、カラオケ店まで事前に下見し、接待漬けにしていた」「問題の副部長は政治部から引き抜かれた国会対策要員だった」…。

連日の報道に、あるNHKの幹部は「うちには、イテててだ」と漏らしていた。

だが、僕としては、副部長が右手に持っていたものを突き止めないことには、取材を終えるわけにはいかない。

ある人物を夜、自宅マンションの前で待ち伏せした。彼ならきっと知っているはずだと確信していた。でも、ストレートに「教えて」と頼んでも無理だろうからちょっとした芝居を打つことにした。

副部長が右手に持っていたもの、もしかして「これか!」と想像したものがあったのだ。彼は深夜、一杯ひっかけてご機嫌な様子で帰宅してきた。僕は「やっとわかりましたよ。右手に持っていたのは、×××だったんですね。まさかと思いましたけど」と話しかけた。すると、彼は「おっ? よくわかったね」と応じた。僕は内心、「やったー。予想通りだった」と小躍りしたが、彼の前ではそんな素振りは見せなかった。

「×××」とはコンドームだった。

あとは、僕の誘導尋問に彼はペラペラしゃべってくれた。「副部長は、左手で300万円の現金の入ったウエストポーチをポンポン叩き、右手にコンドームを持ち、『先生、いくつご用意しましょうか』とニヤけながら迫ったんだ」

つまり、スケベ代議士先生、うちの会長の問題を「なあなあ」で済ましてくれるんなら、現金はもとより、海外のカワイコちゃんもあっせんしますよという、なんとも呆れた接待工作を仕掛けたのだ。まともな人間なら、野中さんじゃなくとも「帰れ!」と怒るだろう。

「でも、書けないだろ」と彼は言った。
僕も「ええ、さすがにこの話は書けませんね」と答えて、別れた。じつのところ、「書かない」つもりだった。いや、同じマスコミ人としてあまりに恥ずかしすぎて書けない、といったほうが正解だろう。僕としては、真相を突き止めることができたので野中さんに侮辱された記者としての「プライド」を守れた、という心境だった。


翌日、議員会館に野中さんを訪ね、「右手に持っていたもの、ついに突き止めました。コンドームだったんですね」と報告した。一瞬、驚いた表情になった野中さんは、「品性にかかわるものを持っていたが、武士の情けで絶対言わない」とムッとしたように言ったきり、あとは口をつぐんだ。

僕はその足でNHKに向かった。

数年前、別のNHKスキャンダルの取材で顔見知りだった広報部の幹部に、「左手に300万円、右手にコンドーム」を突き止めたことを説明した。

そのうえで、「野中さんは武士の情けと言っている。僕にも武士の情けはある。さすがに、これは恥ずかしすぎる。問題の副部長が一言、申し訳ないと謝罪する談話を出すなら、僕もこの事実は胸の中だけに留めることにする」と伝えた。

この問題が発覚して以来、問題の副部長はマスコミの取材にいっさい、答えていない。NHK側は彼をヒタ隠しにしてきた。僕の推測だが、渦中の副部長が一言でもコメントすると、彼がNHKにいること自体は事実だと明らかになってしまう。NHKでは、副部長の存在自体を認めていない。もともと、そうした副部長がNHKにいないのだから、野中さんが暴露したワイロ工作は「デッチ上げか、何かの誤解だ」ということでシラを切り続けようとしていたのだ。

多分、上層部と相談してきたのだろう、小1時間ほど中座した広報部の幹部が戻ってきた。険しい表情で、こう結論を伝える。「副部長本人への直接取材は絶対させないというのが局の方針だ」僕が「それなら、書いてもいいのか」と詰め寄ると、「どうぞ、ご勝手に。この件について、局からのコメントはありません」という返事だった。

僕は、完全にキレた。「武士の情けもへったくれもあるか!」。

翌日の記事、見出しは「NHKコンドーム接待」だった。野中さんのところは出入り禁止になったが、僕は晴れ晴れとした心境だった。

つい最近も、NHKの金銭スキャンダルが相次いで暴露されている。「みなさまのNHK」という紳士淑女然とした仮面の下の、醜い体質は何も変わっていなかったということだろう。僕はこのとき以来、「受信料」を払うのを拒否している。
(2004/9/5)

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