2008年2月11日月曜日

「デリンジャー」を聴きながら

80年代を代表する実力派シンガー、刀根麻理子さんの「ゴールデン・ベスト」を今、聴いている。
収録されているのは、大ヒットしたデビュー曲「デリンジャー」(アニメ「キャッツアイ」テーマ曲)から演歌歌手「野原花子」の別名で歌っている「恋はサーカスゲーム」まで全19曲。

元ファン(いや、そうじゃなかった…今もファン)として、ひとつ、お願いしておこう。


音楽評論家、小川真一さんは「解説」で、次のように書いてある。
「刀根麻理子の名前を意識し始めたのは、ビートたけしの番組を見てからだと思う。土曜日の午後10時半から30分のバラエティーで、中身は相変わらずのナンセンスなコントだったのだけれども、毎回、番組の終わり頃にジャズのスタンダードを流すコーナーがあり、ここで歌っていたのが刀根麻理子だったのだ」
「この番組『OH!たけし』(1985年から日本テレビ系列で放映)で、彼女の虜になった方も多いのではないだろうか」

そうそう、そうだったよなあ、と懐かしい。たけしの番組はいまいちつまんなかったけど、僕も、刀根さん見たさに最後まで番組を見ていたような記憶がある。

新聞記者になって数年後、同期入社の芸能記者が刀根さんを何度もインタビューしていた。取材の後も、ヤツは刀根さんと時々会っていて、「先週、一緒に焼き鳥屋に行った」などと報告するので、「おい、オレもファンだったって言ってるじゃないか。今度はオレも誘ってくれよ」と頼んだが、「あ、ゴメン、ゴメン。この前、また飲みに行ったけど、誘うの忘れてたよ」だって。(…ったく!)

やっと紹介してもらえたのは、今から数年前のことだった。
当時、刀根さんは「ハンディーズ」という障害者たちでつくったバンドの曲をプロデュースしていた。

ヤツを通じて刀根さんからこう頼まれた。
「新聞で取り上げてくれないかしら?」
「はい、そんなこと、おやすい御用です。刀根さんの頼みなら、なんでも」

と、僕はえらく調子のいい返事をしたのだった。

幸いなことに、当時の芸能デスクも僕と同い年で、刀根さんにインタビューしたこともあった。彼に相談すると、掲載OKという。しかも、CDを聴くと、「この緑の地球(ほし)を…」というタイトルの、とてもいい曲だったので、かなり大きな記事にすることができた。

刀根さんとフィアンセ(当時)で出張美容師の廣瀬浩志さんの2人が文京区内にダイニング&ギャラリー「今人」をオープンしたのは、3年前のこと(ちなみに2人は昨年9月、ご結婚されました)。以来、ちょくちょく、友人たちと一緒にお店にいくようになり、親しく付き合わせてもらっている。
廣瀬さんは昨年9月、出張美容師としての体験を綴った感動のエッセー「髪日和」(このブログの「男・江口の涙」にも書いてます)を出版し、作家デビューした。
廣瀬さんは文才があるうえ、ハートの強く優しい人で、僕たち仲間も最初は「刀根さんファン」として店に来ていたのに、いつの間にか「廣瀬さんファン」になっていて、「刀根さん? ああ、廣瀬さんのマネージャーさん?」などと冗談を言う始末だ。

刀根さんも、彼を「直木賞作家にしたい」とベタ惚れで、内助の功に徹しているようだ。

あこがれの元歌姫(?)と、お店ですごく身近に会うことができる(注文したお酒や料理を運んでくれたり、一緒に話に加わってくれたりする)のは、とってもうれしいけれど、やっぱり違うんじゃないかと思う。

一昨年だったか、(ほとんど歌手活動休業中の)刀根さんが久しぶりに、1夜だけのライブを開いた。そのとき歌声を聴きながら感じたことを、きょうまた、CDを聴きながら思い出した。

「刀根さん、あなたはお店で会う人じゃなく、ステージで会う人なんじゃないでしょうか」


刀根さんは僕たちの前でいつも笑顔を絶やさないが、その実、ものすごく頑固な人(だと思うけど、違う?)。
「表舞台に出るより、後ろで支えているほうが性に合っているのよねえ」

そう言っていたこともあるが、でも、でも、才能のある人は「才能を無駄にしちゃいけない」と思う。これだけ「歌」の才能をもらって生まれてきたんだから。

水泳の北島康介の本(長田渚左さんの「北島康介プロジェクト」)を読んで「天才」はなんと辛いものか、と感じた。才能がなければ、才能を磨く努力などしなくてすむ。ところが、才能があると、血がにじむような努力をしてその才能を磨かねばならないのだ。才能を磨け!と周りからも期待される。辛いだろうけど、それが才能を持って生まれた人間の宿命なのだろう。
人間、宿命からは逃げられない。

「歌」は僕たちの心にいろんなことを語りかけてくれる。あるときはともに泣いてくれ、あるときは癒してくれ、そしてあるときは、希望の光を与えてくれる。

だから…。


僕は「ステージ」で熱唱する刀根麻理子を見たい。

(2005/1/9)

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